公益信託澁澤民族学振興基金設立趣意書

 文化というものの存在が広く認識されるようになったのは、せいぜいここ1〜2世紀の間のことである。無意識のなかに行動の枠組、思考の枠組の存在が認められるようになるためには、世界中で広く異文化間の交流が生じる必要があった。二度の世界大戦、脱植民地化、移民や難民の増加、マイノリティの権利主張、多文化主義の成立などを経て、世界中で異文化間の人の交流は衰えるどころかますます盛んになってきており、文化研究の重要性は強調するに余りあるものとなっている。そうした状況のもとで、当基金を、広く人類の文化を研究する民族学、文化人類学、社会人類学などを振興し、これらの分野の研究者、学生などの交流や連携に寄与すると共に、これらの学問の普及を図り、その国際的協力に貢献することを趣旨として設立する。

 当基金の前身は、広く民族学の振興発達を促進し民族学者及び民族学に関心を有する人士の研究交詢、連絡を図ると共に民族学知識の一般的普及を行い他面民族学の国際的協力に寄与することを期して設立された財団法人民族学振興会である。同振興会は、民族学が未発達なところから事業を開始したが、その後、民族学は長足の進歩をとげて、研究者、学生(大学院生)の数も飛躍的に増大し、また学問内容も、民族学、文化人類学、社会人類学等多様な方向に発展し、それに伴って国際交流も日増しに盛んになってきている。それらの成果をふまえて、当基金は活動を行う。既に多くの研究者・学生が存在している状態であり、したがって、新たな研究者・学生の養成と共に、研究そのものの発達を促す事業が有効である。これら専門の研究者・学生の研究活動、また学問の普及・交流を目指す活動に対し助成を行い、さらに優秀な業績を上げた若手研究者を報奨する事業を主体に行うものである。

 この学問の研究活動を盛んにし、研究成果を世に発表し、国際的な交流を促進する事業などを通じて、これらの振興事業の成果は明らかとなるが、それらは、現代の社会状況が必要とする文化研究の現代的意義に照らすならば、ひとえに社会に公益をもたらすものとなるはずであり、当基金はそれを目的に事業を行うものである。